「家にいることだけが安心」だと思っていませんか?
●「家以外の居場所」を考える
日々のなかで、
「ずっとこのまま家で支えていけるのだろうか」
と考えたことはありませんか。
わが子の安心を願うからこそ、
「家以外の居場所」を考えることに、
迷いや戸惑いを感じる方も少なくないかもしれません。
これからご紹介するのは、
そんな不安と向き合いながら、
親子で新しい一歩を踏み出そうとしたお話です。
●【挿話】「家を出ること」の意味
春の風が少し冷たく感じる午後。
わたしは娘の真奈と一緒に、
市の相談支援センターを訪ねた。
「おかあさん、別に行かなくてもいいでしょ」
出かける直前まで、真奈は不機嫌そうだった。
40歳の彼女は、
発達障がいと双極性障がいの診断を受けている。
気分が安定しているときは穏やかだが、
落ち込むと数日間、部屋にこもって何もできなくなる。
それでも、最近は外に出る回数が少し増えた。
今日は〝グループホーム〟という言葉に、
ほんの少しだけ反応を見せたのだ。
センターの職員さんは、柔らかい笑顔で迎えてくれた。
「グループホームは、家族の代わりに支えてくれる『暮らしの場』なんですよ。
『手放す場所』ではなく、新しい関係を育てる場所です」
その言葉に、わたしのなかの緊張が少しほぐれた。
見学に行った先のホームでは、
利用者の女性たちが台所で一緒に料理をしていた。
「ここ、明るいね」
と、真奈がつぶやいた。
わたしは心のなかで小さく頷いた。
帰り道、バスのなかで彼女が言った。
「おかあさん、わたしがそこに行ったら寂しいでしょう?」
「そりゃ寂しいけどね。
でも、おかあさんが倒れたときに安心できるように、
『あなたの場所』を見つけておきたいの」
沈黙が流れたあと、
真奈は窓の外を見ながら言った。
「…おかあさん、わたしも見学してみてもいい?」
その言葉を聞いた瞬間、涙が出そうになった。
無理やり動かすのではなく、
本人の『心の準備』が整ったからこそ出た言葉。
それが、何よりの一歩だった。
その夜、わたしはノートに書いた。
・真奈、グループホーム見学に前向きな反応
・「自分の居場所」を考えられるようになってきた
・親として、支えるではなく『託す準備』へ
月明かりの下、わたしは思った。
「家を出ること」は別れではない。
それは、生きる場所を広げることだと。
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