親亡きあとも、子どもが安心して暮らせる環境を整えよう
●「自立」を目指すことが、家族みんなの安心につながる
親が元気なうちは、障がいのある子どもの通院や
日常生活を支えることも可能でしょう。
でも、年齢を重ねるにつれて、
急な体調変化や対応が難しくなる場面は
少しずつ増えていきます。
そのときに大切になるのが、
子どもが自立して暮らせる環境を整えておくことです。
一般的に「自立」と聞くと、
すべてをひとりでできる状態を思い浮かべがちです。
けれども、障がいのある方の場合、
何もかもを自分でこなすことだけが自立とは限りません。
できないことがあっても、
周囲の支援を受けながら、
自分らしい生活を続けていけること。
そのためのしくみや環境を用意しておくことが、
現実的で大切な自立のかたちではないでしょうか。
具体的には、
・必要な福祉サービスを利用できる体制を整えること
・将来に備えて、一定の財産を残しておくこと
この2つは欠かせない視点になります。
障がいの特性を理解し、
福祉制度に詳しいだけでなく、
不動産や金融商品についても
相談できる人がいれば心強いものです。
そうした相談先を確保しておくことで、
支援につながれずに困ってしまう状況を防ぎやすくなります。
親が元気なうちから、
少しずつ「親亡きあとの準備」を進めていく。
それが、お子さん本人だけでなく、
親御さんやきょうだい、
周囲の人たちすべての安心につながっていくのです。
●親亡きあとの未来を支える準備を進める
これまでコラムでお伝えしてきたことを通じて、
「親亡きあと」の問題や、相続対策に向き合うことの
重要性を感じていただけたでしょうか。
わたしは、障がいのある方のための
グループホームを立ち上げる際、
「どんな立場の人も、安心して暮らせる場所をつくりたい」
「地域のなかで、自然に生活できる社会を目指したい」
そんな想いを胸にスタートしました。
ところが、現実は決して簡単ではありませんでした。
知的障がいや精神障がいに対する偏見や理解不足は、
いまも十分とは言えません。
支援の現場では、
できていたことが急に難しくなったり、
就労を始めても人間関係でつまずいてしまったり、
体調悪化で入院が必要になるケースも見受けられます。
こうした状況を目の当たりにするたびに、
ご家族がこれまで積み重ねてこられた
苦労の大きさを思わずにはいられません。
一方で、国や自治体の制度、福祉サービス、支援事業者など、
選択肢が数多く存在することも知りました。
ただし、それらの支援は
「待っていれば届く」ものではありません。
自ら情報を集め、必要な支援を求めていく姿勢が求められます。
障がいのある方の自立とは、
「すべてをひとりでできるようになること」ではありません。
どれだけ努力しても難しいことがあるのも事実です。
それでも、十分な支援を受けながら、
その人らしく暮らしていける環境を整えること。
それこそが、
本当の意味での自立につながるのではないでしょうか。
この課題に向き合ううえで、
わたしがとくに大切だと感じているのがチームづくりです。
家族だけで、すべてを抱え込む必要はありません。
・家族
・行政
・福祉事業者
・相続対策チーム
それぞれが役割を持ち、
連携しながら支えていく体制が重要になります。
そのためには、関係者をつなぎ、
調整する役割を担う人の存在も欠かせません。
家族がその役割を担う場合もあれば、
必要に応じて専門家の力を借りる選択もあります。
ただし、すべてを任せきりにするのではなく、
主体は常に家族であることが大切です。
将来きょうだいに支援をお願いする場合も、
「何を、どのように担ってもらうのか」
をあらかじめ整理しておくことが、
負担や不安を減らすことにつながります。
こうした準備を進めていくことで、
親であるご自身の人生も、
より穏やかで充実したものになっていくはずです。
わたしがこれからも取り組んでいきたいことは、
・地域の相談窓口として寄り添うこと
・関係機関をつなぎ、必要な支援が届く環境を整えること
・相続対策として、障がいを持つ子どもに何をどのように残し、
管理していくかを一緒に考えること
親亡きあとの問題は、
ひとりで抱えるにはあまりにも大きなテーマです。
けれども、適切な支援とチームづくりによって、
道筋はきっと見えてきます。
これからの準備を考えるうえで、
少しでもお役に立てたなら幸いです。

