入居者には思い込みの激しいタイプもいる
●「お金をとられた!」→とられていなかったケース
グループホームには、思い込みの激しいタイプの方も少なくありません。
脳の病気の影響で忘れっぽくなり、自身が行った取引を忘れてしまう方もいます。
もともとは、障がいを持っていなかった50代の女性なのですが、脳の病気で手術を受けて以来、高次脳機能障がい(脳の損傷により、思考・記憶・行為・言語・注意などの脳機能の一部に障がいが起きた状態)になってしまいました。
それ以来、とても忘れっぽくなり、以前から行っていた株取引や、ネットバンクによる銀行取引時に、システム仕様の変更によってパソコンや携帯電話からの入り方が少し変わるだけで、わからなくなってしまいます。
さらに、ご自身でボタンを押し、内容を理解しながら取引をしているはずなのですが、残高が減っていると、
「お金が減っている! 絶対に銀行がとったんだ!」
と言い出すのです。
ほかには、それなりに携帯電話を使用しているはずなのに、支払い金額が高くなっていると、
「携帯電話の会社が自分のお金をとった!」
と叫ぶこともありました。
ご自身がボタンを押した、もしくはサービスを利用したという記憶がなく、すべて相手のせい、誰かのせい、ととらえてしまいます。
近くにスタッフがいるときには、かならず
「銀行がお金をとったんだけど、どうしたらいいの?」
「携帯電話の会社からお金を取り返すには、どうすればいい?」
と相談してくるのです。
スタッフが
「それはきっと、あなたがボタンを押したからですよ」
と説明しても、まったく受け入れてくれません。
スタッフも、説明に苦慮している様子です。
以前はそこまでのことはなかったように思うのですが、認知機能の衰えが進んでいることも影響しているのかもしれません。
●入居者に多い特徴
グループホームに入居している人たちと関わっていると、いろいろな「名人」が見られます。
たとえば、
・人のせいにする名人
・話のすり替えの名人
・正論の名人
などです。
たとえば、ものがなくなった場合、基本的に
「自分がなくしたのではない、誰かが盗んだんだ」
などと考えます。
自分ではなく誰かが悪い、と主張するばかりで、反省することはほとんどありません。
●「鍵を盗まれた!」→盗まれていなかったケース
被害妄想も、起こりやすい特徴のひとつです。
たとえば、聴覚障がいがあって、基本的に話ができない40代後半の女性が、入居している部屋の鍵を失くしてしまったことがありました。
その人は、
「談話室のテーブルの上に鍵を置いて、一度部屋へ帰ってから元の場所に戻ったら、鍵がなかった。自分はどこにもやっていない。(グループホーム内で揉めることの多い)Aさんが盗んだに違いない!」
と主張します。
もちろん、Aさんは鍵を盗んでなどいません。
でも、Aさんが盗んだものと思い込み、決めつけてしまうのです。
さらにあとから、
「じつは、夜中にAさんがドアを開けてわたしの部屋に入り、鍵を盗んだ! それだけではなく、Tシャツをビショビショに濡らされて、気持ち悪い思いをした!」
と主張しました。
当然、そんな事実はありません。
結果的に、鍵はその人の部屋にありました。
いままでも、同じようなことは何度も起きていて、スタッフが一緒に部屋へ入り、くまなく探したこともあります。
何かがなくなったときには、部屋のなかを探すとほとんどの場合見つかっていたのですが、そのときも同じパターンでした。
かならずしも、ホームのなかで失くしたとは限らず、外で落とした可能性もあります。でも、わざわざ盗む人などいないでしょう。
このように、思い込みの激しい人がいるのも現状です。
こういった出来事も、相手を理解するための糧にして、冷静かつ穏和に対応しています。